DVDで見て惚れ込んでいた「THE LAST PARTY~S.Fitzgerald’s last day~」が約1年を経て東上したので見てきました。
アメリカ文学を代表するフィッツジェラルドの生き様を描いたミュージカル。
形態は、現代の役者がフィッツジェラルドを演じる劇中劇の形をとっています。物語としては先の「不滅の恋人たちへ」に似たところがありますが(てか、ラスパの方が上演が先だが)、主人公とヒロインの性格が違うので自ずと結末は違ってます。
小説で身を立てようと野心に燃える青年が、出版した小説によって一夜にして時代の寵児となり、美しい女性ゼルダを手に入れ、パーティで毎夜浮かれ騒ぐ。そんな、時代の寵児と時代の最先端を行くフラッパーガールの組み合わせは世間から「プリンス・スコット&シンデレラ・ゼルダ」ともて囃される裏で、スコットは芸術性を重視した小説を書きたいと望みながらも連日の馬鹿騒ぎがそれを阻む事に悩む。ゼルダは、自分がスコットに貢がせ振り回し、足を引っ張る悪女のように世間から思われていることに苛立ちを覚える。
やり直しを企図し、リビエラへ旅立ったふたり。しかし、スコットが後の大傑作「偉大なるギャッツビー」の執筆に没頭する傍らで、自分の寂しさを誤魔化してくれる乱痴気騒ぎが無いせいかゼルダは自分を見失い、愛する夫に見向きもされない寂しさから不倫に陥る。
ゼルダの不倫を知り、スコットは激怒。ゼルダは自殺を図り、一命を取り留めた。お互い愛している故に破局は免れても、永遠に取り返すことの出来ない何かを失ったままふたりは帰国する。
帰国したスコットを待ち受けていたものは、アメリカの大恐慌とゼルダの精神疾患、アーネスト・ヘミングウェイの台頭だった。ゼルダの入院費と愛娘の養育費が重くスコットにのしかかり、金のために短編小説を書き殴る。それが彼の芸術家としての魂をすり減らせ、「世界最高の小説を」と望む自分と現実との間で苦悩する。
苦悩の果てに、小説を書くことに体が耐えられなくなったスコット。そこでやっと、小説を書き始めた頃のように純粋に小説を書くことに埋没し、それを楽しいと感じるようになったのだが、最後の大作「ラストタイクーン」は未完のままその生涯最後の時を迎えた。
とまあ、あらすじはこんな感じですが、ゼルダの焦りや孤独、スコットの苦悩、すれ違いから不幸が訪れるやるせなさ、不幸になりながらもお互いを愛する切実な思い等が切ないぐらいに伝わってきて、素晴らしい舞台です。また、スコットを追いつめるアメリカが世界に誇るノーベル賞作家・ヘミングウェイの使い方も絶妙。
二幕は何回見ても「愛の残像・ゼルダの手紙」「最後の手紙」で泣いてしまいます。DVDで見る度に泣いてるし、今回千秋楽も含めて3回見ましたが、3回とも泣いてしまいました。
また演出も凝ってて、フィッツジェラルドの長編大作作成年代ごとに話が進められていて、その年代の時には舞台の端にその文学作品のタイトルが表示されている仕掛け。バックのスクリーンも効果的に使用され、最後の数分は1分ごとにカウントが表示されて効果的でした。
DVDだと歌が壊滅的でしたが、今回安心して聴けるレベルになっていました。
あと、落ち着いた感じが出てきていて、二幕以降の絶望的な状況にあってもなお、自分の望みを捨てないフィッツジェラルドの大きさや切なさが良く表現されて胸に迫りました。男の落ち着きが感じられて好演でした。
うーん。
るいるいも頑張っていましたが、いかんせん、彼女の真面目さが所々出てしまってて、フラッパーガールの軽薄さからくる自分の虚無さに苛立つ演技があまり・・・。ゼルダって理知的に見えると駄目なんですよね。
ゼルダは、お馬鹿だけどスコットを思う気持ちは実は一途、って感じが合うと思います。
前回のジョルジュ・サンド役の方が彼女には良かったかも。
相変わらずの大芝居ですが、この作品では余り気になりません。
この人、低音の方が声にぶれが出ませんね。上手く響くし。
なにせ、フィッツジェラルドの脅威となる大作家ヘミングウェイ。密かに実はフィッツジェラルドがなりたい作家像かもしれない役所。ずんずんスコットを追いつめる感じがすごく良く出てました。デカい体も幸いしてましたね。出てくると「アーネストきたっ!!!」って感じだったもの(笑)「まーたーおいつーめーるー」見たいな。
もう、ヘミングウェイのテーマが生で見れて聴けて幸せ~~~~。
超カッコいいです。ホントに。
○美郷真也(マックスウェル・パーキンス役)
大出版社の編集長。スコットとアーネストを育てた編集さん。
味のあるオヤジ役が似合います、マリエッタさん。脇役ながらも重要な役。大物感が滲み出てました。
お願い、長く宙組にいてね!!!(マジ)
○五峰亜季(シーラ・グレアム役)
どうも五峰さんというと「エリザベートで黒天使だった人」というイメージが(笑)いや、綺麗でカッチョ良かったんですよ。
晩年のスコットを支えた愛人さんを好演。
愛人と言うよりお母さんのような感じで、「子供の頃なりたかった夢はお母さん、でも、なれなかったキャリアウーマン」と言う微妙な役所を自然に演じてらっしゃいました。
最後のオマージュやカーテンコールまでタニをお母さんの視線で見ていたのがなんか微笑ましかったです。頭撫でてるし(笑)
他の生徒さんもみんな頑張ってましたね。
ちなみに、この日の二回目の公演は総見だったらしく、客席もノリノリでした。
初秋の公園のシーンでは、男子学生がフットボールをキャッチボールしながら駆け抜けるのですが、その時の台詞が「先生が呼んでたぞ」「宿題忘れてたー!!!」に変わってました(笑)
あと、先のバウ公演と青年館公演とでは一部台詞が変わってます。
細かくは覚えてませんが、一番変わっていたのはアーネスト絡みの台詞。
大きいのは、バウは「スコットとアーネストの出会いのシーンの後でアーネストをマックスウェルに紹介」だったのが、「アーネストを紹介した後に出会った」設定に変更。飲み物しかスコットが奢っていなかったのが、昼もろくに食べられない貧乏アーネストに食事をご馳走していること。飲み物もふたりともシャンパンを飲んでいました(バウではワインとバーボン)。
あと、ゼルダの「計算はお肌に悪いでしょ」の台詞がなくなっちゃってた。あの台詞好きだったのになぁ・・・。