作:井上ひさし、演出:蜷川幸夫、音楽:宇崎竜童
という、「これで良い舞台じゃなかったら嘘だろう」という顔合わせ。期待通り、舞台作品としては素晴らしいものでした。
が、
お子様は見ちゃいけません。大人でも、お気楽なお芝居をお好みの方はお勧め致しません。死とか、生とか、そういう問題について真剣に考えることが可能な大人向けの作品です。
ええ、大衆演劇の枠じゃないでしょ、これ。芸術作品だわ。
『世界に認められる芸術というのは、確固たる思想を持っていなくてはならない』と言ったようなことを大江健三郎氏がノーベル文学賞受賞したときに耳にしたけれど、世界の蜷川もそこに当てはまるんかねぇ、と。
重い。とにかく重くて頭痛がしたけど、面白くて目が離せない。あまりの重さに中座しかかったけど、続きが気になって中座できない。
あらゆる意味で凄いモンを見ちまった感覚。
時は江戸中期。盲目に生まれた杉の市の極悪非道ながらどこか哀れな一生の物語。
てことで、台詞の中に思いっきり「めくら」「めあき」「あきめくら」と言った放送禁止用語満載。人殺し当たりまえ、陽気に陰惨に思いっきり直接表現でセックス・強姦これ上等!的な・・・。なんてとんでもない。
なのに、舞台に出ずっぱりのギター奏者が奏でる音楽、舞台に張り巡らされたロープを上下左右に移動させて地形や建物を表現する演出の妙、役者の持ち味を十分に生かし切った配役、と私の文章能力じゃどんなに言葉を費やしても表現できないぐらい、その渾然一体となった舞台は素晴らしい。
劇団☆新感線の古田新太さんが杉の市(後の2代目薮原検校)役を好演。
悪役なのにどこか憎めない、そんな杉の市役がはまりまくってました。極悪非道なのに愛嬌がにじんでて、自分の考えを実現しようと一生懸命でその結果、人を殺してしまったりするあたりが哀れ。
ほか、段田安則さんや六平直政さんなど名優揃い。しかも、主役と盲太夫の壌晴彦さんやお市役の田中裕子さん以外の役者さんは皆、一人で3役以上の役をこなすという凄さ。名優ばかりなので、各役者さんの色んな演技をひとつのお芝居で見られる感じでちょっと贅沢だな~、と。その分、役者さんは大変だろうけど。
田中裕子さんの発声がちょっと悪くて台詞が聞き取りづらかった以外は、役者も申し分なし。
作品的には結構考えさせられました。
杉の市が極悪非道の限りを尽くしたのは、盲であることが悪かったのか、時代が悪かったのか?いいや、同じ盲の塙保己市(はなわほきいち)は学問で身を立てて幕府の要職にまでついたじゃないか。いや、その保己市も最後には結局身体の不自由なものを差別するように将軍補佐役を仕向けたじゃないか、それは杉の市よりも非道じゃないのか・・・。さて?
何度も見ないと答えは出ないか、見ても出ないか。
もう少し年を食ってからまた見ると、新しい考えが浮かぶかも。
そんなことを考えながら帰路についた。
ほんと、とんでもないものを見てしまったよ・・・。