たかちゃん(和央ようか)が主演するお正月映画『茶々-天涯の貴妃(おんな)-』の原作、「淀どの日記(井上靖 著)」をやっとこさで読み終えました。
やっとこさって言っても、私の身体上の問題でなかなか読み進められなかっただけで、文章自体はそれ程難しくはありません。長編ですが、割とすんなりと読める流麗な文章です。
題名の付け方がなかなかピッタリな茶々像ではあります。話としては非常に面白く上品な美しさを持った作品ですから、映像化そのものには意義はありません。ただ、長くても3時間程度の尺しかない映画にするのは無理があるような気がします。
おそらく、生い立ちの多くはカットでしょうか?
だったら、大河ドラマ・・・とは行かなくても二日連続特別ドラマみたいな作りにした方が良かったかなぁ。せっかくの原作が勿体ない。
で、東映さんが力を入れて制作する時代劇としてはいいと思います。いいと思いますが・・・茶々をたかちゃんがやるとなると・・・どうよ。
私が思うには、たかちゃんなら十二分に演じられると思います。
ただ、ただね、ファンがついていけない気がします。
甲冑を身に纏って馬で戦いに挑む?
馬鹿な。
たしかに、原作中には武具を身につけて番屋を見回り、戦にいつでも挑む気概を他の者に見せつけるような表記はあります。
しかし、茶々という女は、女の枠を決して出ない女です。昔の女性としては勝ち気で強い女性ですが、現代の「強い女」を基準にしてしまうと物足りない部分があります。
気は強いですが、自分から率先して何かを行い、世を動かすと言うことを考えつかないのが茶々です。気位が高く、自分が世の中を動かすという野望も欲もなく己が立場と幸せを守るという視点でしか物を考えられない。間違っても、男勝りではない。
気品と美貌とその生来の勝ち気さから、秀頼を擁して己が権力を握り、武将たちの心を掌握しようと働いて天下を守ろうとしてもおかしくないし、出来たと思う。
しかし、井上靖の茶々はそれをしない。秀頼を守ろうという気持ちは強いが苛烈さにかける。
けれど逆に、それが茶々の茶々たる強さを持ちながら美しさと儚さを併せ持つ人となりの魅力として井上靖は書いているのではないかと私は思いました。
強くはあるが、苛烈ではない。だからこそ、茶々は美しい。
弱々しい悲劇のヒロインではない。
強くしなやかな、しかし、「悲劇のヒロイン」だ。
でも、それはおそらく、私をふくめた「たかちゃんファン」が持ち合わせる「和央ようか像」には合わない。
「悲劇のヒーロー」は想像できても、我々は「悲劇のヒロイン」の和央ようかを想像できない。
想像できないだけならいいが、受け入れられるかどうか。
さらに、危惧するのは、そんなファンに迎合するがあまり原作の茶々の良さをねじ曲げ、改悪する可能性。プレスリリースを読む限りでは、そっちの方の可能性が高い気がするんですよね。
まあ、映像化するに当たって原作なんて無きに等しいなんてことは、枚挙にいとまがありません。映像化した作品と原作は切り離して見てみて、それはそれで素晴らしい作品として存在すれば、別段問題はないでしょう。
あまり、原作に忠実であることを期待しないでいた方がいいでしょうね。
荘厳華麗な花見の宴で、桜の中を幼い秀頼が茶々に駆け寄るシーンの夢のような美しさ、そして儚さは忠実に表現して欲しい所ですが。
過去に拘らず、淀殿の諸説に拘らず、誰にも想像し得なかった時代劇作品が完成すればいいな、と思います。
井上靖全集に収録のものを読んだので、他の2編もよもうかな~。そんなにたくさん本を読むわけじゃないので初めて読んだけど、綺麗で読みやすい文章なので好きですね、井上靖。けっこう、淡々とした表記の積み重ねが深みを生み出すスタイルは好きです。
しかし、全集は重くて読みにくいな~。文庫本はやっぱり手軽でいいですね!